ブータンの首都ティンプーでのワークショップを実行するべく現地に滞在するアーティスト五十嵐靖晃と北澤潤の日記。

2011年3月30日水曜日

5日目 北澤潤

2011329

 

 ティンプー中心街にあるホテルペリン。大きなワゴン車で出発するが、デジタルカメラのバッテリーを忘れて引き返した。その隙に五十嵐さんは地下のレストランで朝食をパックしてもらう。再度車に飛び乗って陽気なガイド、リンチェンさんとドライバーのティンレーさんとともにDruk Schoolに向う。2枚目のパンをほおばりながら校門を入りすぐに準備をはじめた。

 

空を描いた布はすっかり乾いて、色はだいぶ落ち着いている。5枚の布と5つの骨組みをグラウンドに運ぶ。昨日つくったひとつめのSky Bedを子どもたちが神輿のようによいしょよいしょと運んでいる光景をビデオにうつしていたのだが小さな空が歩いているようで微笑ましい。空の布をテンションかけて張る作業をはじめるが、力がいるのでなかなか子どもたちにはできない。それでも大人のフォローや、縄を準備する役をしたり、頑張って自分で張ってみたり、それぞれやることをまず見つけようとしていた。ただしそこであまり見つからないと男子はサッカーをしたがる。女子はおしゃべりなど。昨日よりはるかにゆるい方法ですすめてみていたので散漫になりそうだった。五十嵐さんとは事前にこの布を張る時にだんだんと手持ち無沙汰になることは予測していた。なので、同時に学校づくりの方も私が担当してすすめていくことにした。

 

まずは、学校をはいってすぐのところにある大きめのホワイトボードを借りてくる。Artの先生であるテシーにマーカーもお願いするが、なんでか時間がかかって新品を用意された。普段使っているのがあるはずなのになぜだろう。そういえばクレヨンも新品だった。外部者への気遣いといったところだろうか。だんだんと子どもの名前を覚えてきた。タシデマは一緒についてきてくれて、最初ふたりでホワイトボードを動かそうとしたが結局男子たちに運ばれてしまった。マーカーを数本もってもどる。《School of Sky とタイトルを大きくマーカーで描き、みんなに色塗りをおねがいした。チェッツォたち女子グループに学校の全教科を挙げてもらいながら、買っておいたマットをホワイトボードの前に敷く。男子たちもだんだん寄ってくる。この教科の中から好きなものを選んで先生をやってもらうことになるのだが、ひとまずスカイベッドができてから班分けや内容づくりを行いたかったので、その間明日のチラシをつくることにした。キンリーとともにスタッフルームに行き、いらない紙をもらう。スタッフルームはいわゆる学校事務の場所でパソコンが3台あった。

 

チラシに記載すべき必要な情報をみんなに伝える。

SCHOOL of SKY

Time: 30th March  2pm – 3pm

Place: Football Ground

We are planning our original school “School of Sky”.

We will be teachers in School of Sky the time.

Please do come!!

 

マーカーとクレヨンを駆使してチラシを書く。だれに配る、どこに配る、何枚つくる。みんな配りたい一心で枚数を増やしていった。こういう作業になるとみんなのキャラがすごくわかりやすい。カルマはお調子者で歌をうたったり、どうしょうもない日本語を言ってふざける。チミは背が大きいしっかり者な印象。私が描いたチラシをなぜか毎回褒める。ナムカは坊主で小さい、葉っぱを両手でこすって緑色にして私に見せながら笑っている。タシデマはチラシにする紙を黒く塗り、虫眼鏡をつかってもやそうとしていた、今日はたしかに日射しが強い。標高がたかくて寒いはずなのに日光によって汗をかく。誰かが私の両頬に手を当てた。ナムカだ。なんのことかと思ったらカルマが「チ、チ、チ!」と言う。この葉っぱは肌がいたくなるらしい。そういうことか、ナムカの手をとって彼の頬にもつけてやる、騒ぎ笑うナムカ。昨日かなり気になった言葉の壁はだんだんとなくなっている気がした。

 

チラシが35枚描き終わると、スカイベッドも5つ完成。円弧状にならべてみんなで乗ってみる。トリスンが気持ち良さそうに寝ている。チミが乗ったら竹が痛む音がしたけど気にしないことにしよう。しばらくの間、思い思いにスカイベッドを使ってもらい、飽きてきたら中心にあつまってもらった。これから明日に向けて内容を考えますと言うと、みんなチラシを書いているので、ようやく来たかという感じ。ホワイトボードに書いてもらったなかで先生をやりたい教科を挙手してもらう。大体が英語と数学。数人が社会や理科を選んだが、しょうがなく英語と数学チームのなかにはいってもらうことにした。リーダーを決めるが当然だれも名乗り出ない、私の印象で選んでみると、トリスンは一言、100% no problem! かなり疑わしい。

英語チームのリーダーがトリスン、数学チームのリーダーがキンケン。チームごとに別れてもう一度スカイベッドを使ってみてもらう。一気にごちゃまぜになる。リーダー早速まとめられていない。雨がふりそうなので、一度スカイベッドを端にまとめ、カバーをかける。マットに靴をぬいで座りミーティング。この時点で与えられた時間は過ぎていたのだがあと15分ならいいとワンガさんがいったので続ける。

 

英語と数学はいつもどのような授業か、日本から来た私たちに教えてくれという雰囲気で聞いていく。内容自体は大して変わらない。日本とここで違うところは授業の内容というより、学校全体がもつ空気感だろう。日本よりはるかに緩い。校長先生は「バランス」と言っていた。「日本はstudy study study.ブータンはfree。でもフリー過ぎはだめ、バランスよ。」と。

 

授業内容を考える時間は私も全く予想していないので、我々にも彼らにもハードルが高い時間になる。みんなで車座になりながらアイデアを待つ。トリスンとカルマはふざけている。英語チームのチミがいった「スカイベッドの上で空について話す。」これが英語チームのきっかけとなった。私がその言葉をひろって細かくどうするのか聞いてみる、最初はスピーチするつもりだったのだが、だんだんと二人一組でスカイベッドで話すという流れになってきた。チラシをみてきた先生達も混ざれば面白い、チミがリーダーシップをとってだれが先生をやるかも決定。英語チームは大丈夫そうだ。数学チームは全くまとまらない。キンケンがふざけていったsleep!という言葉を五十嵐さんがひろい、スカイベッドで眠ること授業で眠ること、でも数学的要素を含むというキーワードだけ出たところで終わった。

 

活動を仕掛ける側がスケジュールや最終形を予想できない進め方が、リスクはあるが真実だとおもっている。やることやステップをきめてすすめるというより、一緒につくる人達との対話でどんどん拡張していく。その都度どうするか考え、即興的におさまりかたを考える。今回の数学班はあまりに収まらなすぎだがそれもまた良しである。

 

最後にチラシを配る。超特急でチラシを持って学校内に散らばった彼らは、先生を探し声をかける。キンケンとナムカについていってみるが、ほとんどすでに渡されていた。みんな授業中なのに気にせず教室にはいっていく。いいのかなーと思いながら、こっちの前提がおかしいということが今回かなりあるのでひとまずほうっておくことにした。

 

明日の2時から1時間おこなわれる《School of Sky》は前日の今日、彼らの手で予告された。

 

片付けを終えてお茶をしていると、グラウンドにほぼ全校生徒が集まり行進の練習をしている。学年ごちゃ混ぜの4チームに別れて先頭が旗をもつ。このグループは何だとワンガさんに聞いた所、入学時に分けられて、その後、スポーツで対抗戦をしたり、勉強で比較したりするらしい。年度ごとにトップのグループを決める。トップのご褒美はピクニックだという。この方法には驚いた。校長先生の言葉を思い出す。「バランスよ。」なかなか大胆なバランスのとり方だった。

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